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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)166号 判決

上告人

寺田佐平

被上告人

荒尾市選挙管理委員会

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。

地方自治法における選挙に関する訴訟においては市委員会(市選挙管理委員会の意以下同じ)の処分に対して不服ある者は必ず縣委員会(縣選挙管理委員会の意以下同じ)に対する訴願を経なければ高等裁判所に対する訴を提起すること出來ないのであるから高等裁判所に提起する訴における不服の対象となるものは先ず第一次的には右訴願に対する縣委員会の裁決であつて市委会の処分ではない筈である(この事は縣委員会が市委員会の処分を取消した場合については疑ない処である)されば此訴は不服の対象たる裁判をした者でない市委員会を相手とするよりは右の裁決をした縣委員会を相手とする方が筋が通るわけである、只縣委員会が市委員会の処分を支持した場合及び本件の如く訴願を形式的理由で却下した場合においては訴の終局の目的は市委員会の処分を取消すことにあるのだし、市委員会を被告としてもその訴に対する裁判は行政事件訴訟特例法第一二條において縣委員会をも拘束するであろうから市委員会を被告としてもいいではないかとの説もある。

しかし前記の樣に縣委員会が市委員会の処分を取消した場合は縣委員会を被告としなければならないから、此場合には縣委員会を被告とし然らざる場合は市委員会を被告とするというのは統一を欠く嫌がないでもない、それのみならず、処分――訴願――訴訟を行く順序からいつても訴訟においては訴願者を相手とするのが本筋であるといわなければならない。

此場合行政事件訴訟特例法が適用あるか否かは爭のある処であるが適用あるものとすれば同條にいう(「処分を爲した行政廳」とは縣委員会であり「処分」とは訴願に対する裁決である)そして縣委員会を被告とした訴に対する裁判は同法第一二條によつて、市委員会をも拘束するから本件において原審に対して縣委員会を被告として市委員会の告示の取消を求める訴が提起されてある以上これによつて原審(上告人)の目的は十分達せられるであろう、それ故(たとえ市委員会を被告としても訴を提起し得るとする説を採るとしても)市委員会に対する訴は最早全くその必要のないものであるから原審がこれを却下したことは結局違法でないこととなり論旨はすべて理由なさに帰する。

よつて民事訴訟法第三九六條第三八四條第九五條第八九條に從つて主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

告代理人本山義男の上告理由

第一 上告人の本件請求の趣旨には「荒尾市選挙管委員会が同年六月十二日爲した昭和二十三年五月三十日執行の荒尾市長選挙における当選人寺田佐平は地方自治法第六十條第一項の期間内に市議会議員の職を辞した旨の届出をしなかつたので当選を辞したものとみなしここに当選人がなくなつたことを告示する旨の告示を取消す」との一項があり是れは被上告人がした行政処分でありますから行政事件訴訟特例法第三條により処分をした行政の廳たる被上告人を被上告人を被告として原審に提起したことは適法であります。

原審は地方自治法第六十六條第四項に「都道府縣の選挙管理委員会の決定または裁決に不服のある者は高等裁判所に出訴することが出來る」と規定を引用してその訴訟の相手方を定める法意を含むものと解したもののようであるが前記法條は裁判所の管轄を規定したに止まりその相手方たる官廳を都道府縣選挙管理委員会であることを規定したものでないのであります。從つて此規定は行政事件訴訟特例法第三條に「他の法律に特別の定のある場合を除いて」と謂う訴訟の相手方に関する例外規定ではないのでありますから同法條の規定する原則に則り処分をした行政廳たる被上告人は前掲請求の趣旨に関する本訴については適法な被告であることは極めて明白であります。

右の理由により原審が被上告人に対する上告人の訴を不適法であるとして却下の判決をしたのは違法であります。

第二 地方自治法第六十六條第一項によれば「選挙人又は候補者は選挙又は当選の効力に関し異議あるときは(中略)当該選挙に関する事務を管理する選管理委員会に対してこれを申立てることが出來る」と定め、同條第二項は「前項の規定に依る市町村の選挙管理委員会の決定に不服がある物は都道府縣の選挙管理委員会に訴願することがでる」と規定し、更らに第四項で高等裁判所に対する出訴を認めて居る、即ち選挙又は当選の効力に関し異議ある者の不服の申立の方法は異議―訴願―出訴と謂う段階に依つて進むのであるけれども、是は行政上の違法処分の是正の方法として先ず異議申立に依つて処分をした行政廳自身に反省是正の機会を與え尠くともその効果がないとき更らに上級官廳の是正処分である裁決を求むる爲の訴願を許したのであるが訴願による裁決にも尚お満足しない者のために別途の救済方法として出訴を許したのであつて―異議―申立訴願出訴と謂う段階は裁判の審級という観念ではないから本件請求の趣旨中の第一に掲ぐる「熊本縣選挙管理委員会が昭和二十三年七月五日爲した訴願却下の裁決を取消す」との請求は或いは必要ではなく從つて裁決官廳である縣選挙管理委員会に対する訴はその利益がないものとして請求を棄却せらるることは或いは相当かとも思料せられるけれども原審が被上告人の爲した六月十二日の告示を取消す旨の判決をしながらその告示(行政処分)をした被上告人に対する訴を不適法として却下したことは違法であります。

第三 本訴は始め熊本縣選挙管理委員会のみを被告として出訴し、出訴期間経過後被上告人を被告に加えたのでその適否について疑間なしとせぬが行政事件訴訟特例法第七條第一項は被告たるべき行政廳を誤つたときは被告の変更を認めて居るのでありますから上告人が出訴後本訴請求を容認する判決を受くるが爲めには被上告人を訴訟の相手方とすることが必要であることを認めて新たに被告を追加し原審がその追加された被告、即ち被上告人の処分を違法であると認めて取消す旨の判決をした以上、被上告人を相手方に加えたことは前記法條の精神からして適法に出訴の効力を生じたものと謂うべきであつて此の点よりしても訴却下の判決を受ける理由はないと信じます。 以上

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